九州大学ヨット部前主将 長尾創真
リーダーシップとは何だと思いますか?
この質問は僕が2年生の時に監督に伺ったものです。
自分は1年生の途中から学年のリーダーに選ばれていました。
どうして自分が選ばれたのかは今でも分かりませんが、何故か選ばれてしまいました。
ヨットの経験者でもない、カリスマ性があるわけでもないのに…
自分がリーダーをどう務めればいいか全くわかっていなかったです。
1年時の主将は田中航輝先輩です。一番最初の新入生合宿の時に、航輝さんが入ってきた時は、「え?大学生ってこんな怖いの?大人すぎる…」と圧倒されました。
航輝さんは実力的にも誰もが認める強さがあり、カリスマ性があり、人間性も兼ね備えていらっしゃる凄まじい主将でした。
小戸の全体ミーティングで航輝さんの後ろから西日が射していた時は、後光が差しているように見えて、「あ、この人、神なんだな」と思っていました。
その航輝さんのイメージがあり、主将とは強くあるべきだというイメージがつきました。そして、それとともに自分にそうなれるのだろうかという不安にも駆られました。
4年生になる前、同期のみんなに主将に選んでもらいました。
その時にもまだ自分の中でこれだというリーダー像は固まっていませんでした。
しかし、昨年の11月に主将に就任し2月までの期間で自分なりのリーダー像を見つけるきっかけの出来事が2つありました。
1つ目が遅刻、2つ目にトレーナーです。
1つずつ反省しながら振り返っていこうと思います。
1つ目の遅刻について。
僕は12月末の平日練習に参加すると言っていたのに、朝の集合時間どころか出艇時間にも間に合わず、大きく遅刻してしまいました。
原因は練習前夜にお酒を飲みすぎたことです。
自己管理が一切できていませんでした。リーダーとしての自覚も全然無かったです。
その時に同期みんなに怒られ、失望され、期待と信頼を裏切ってしまった自分の愚かさに嫌気が指しました。
謝っても仕方ないことは分かっていて、でも謝らないと済まされず、しかしみんなの目が怖くて顔をあげることができない日々が続きました。
この事件の時に同期選手がLINEをくれて、その時の言葉で
「みんなが認めて信頼してるから主将になったんだから、その信頼を損なわないようにしてくれ。
見損なったよ。」
と言われました。
不甲斐なかったです。
日本一になると言っている主将が何をしているんだ。
みんなが本気で頑張っているのに、自分がそんな姿では誰もついてこない。
このままでは日本一になんてなれない。
そう強く感じました。
落ち込んでいる期間もありましたが、沢山の人に声をかけてもらい、なんとか復活しました。
失った信頼を取り戻すことはできないけれどもう一度信用を積み上げようと決心しました。
日本一の主将になろうと改めて誓ったのがこの遅刻の一件でした。
2つ目にトレーナー問題です。
今年は部の運営方法を変更し、トレーナーを導入しました。トレーナーとはマネージャーとも選手とも異なり、ヨットには乗らないで、海上運営のプロフェッショナルになるポジションです。
このポジションの人がいることで、1年間通してレスキュー艇に乗っている人がいるため、海上運営の反省改善が常に活かしやすくなります。また安全面に関しても更に強固なものにすることができます。
1月から2月にかけて、このポジションには4年選手から今すぐに1人出した方がいいのではないかという議論が行われました。
安全面に関しては選手をトレーナーにすることで、海上での経験値や危機察知能力が他のスタッフよりも長けている人間をレスキューに乗せることができます。
また、海上運営に関しても選手の気持ちがわかる人がいるのは心強く、より効率の良い練習ができるのではないかと考えられました。
僕はこの意見に賛同していました。
この時僕は「主将は自分が日本一に近づくと思ったことをガンガン進めていかなければいけない」と考えていました。
そして、候補の1人にトレーナーになってくれないかとお願いしました。
しかし、彼は
「この一年で成長してレギュラーになってやりたい。選手として、選手の先輩方に憧れて入ってきたのに…部のためにといっても自分が頑張れるポジションではない。」
という想いを感じていました。
彼はやはり選手として部活をしたかった。
しかし、僕は彼と何度も話す内にトレーナーとして部活をするくらいなら辞めるというところまで追い込んでしまいました。
僕は、どうして日本一になるためにしていることなのにわかってくれないのかと思ったこともありました。
でも自分の中でも彼を苦しめているこのやり方はどうなんだと揺らいでいる気持ちがありました。
そうやって悩んでいる時、副将の内藤に助けてもらえました。
「人を大切にすると言ったじゃないか。」
「勝利至上主義になっているじゃないか。」
こう言われました。
そこではっと我に帰り、自分の過去の発言を思い出しました。
僕は新主将挨拶の時にこう言ったのです。
「全ての部員がやりがいを感じ、ヨット部に所属することで圧倒的に成長できたと胸を張って言える組織にしていこう」
「ワクワクすることをしよう」
内藤に指摘され大切なことを忘れていた自分に気づきました。
個人を大切にしたいと言っていたではないか。
相手が感じていることは何なのか、その人がしたいことは何なのか、その人にとって一番ワクワクする未来はどんな未来なのか。
一人一人の話をきちんと聞いて、その未来を一緒に作っていく人間になりたいと改めて感じました。
その後、候補になっていた彼には改めて連絡して、彼のどうしても選手として戦い切りたいという気持ちを聞き、トレーナーではなく選手として続けてもらうことになりました。
この2つの事件から僕は主将としてどうあるべきなのかを自分の中で固めることができました。
まず、1つ目に「信用を積むこと。」
信用がなければ誰もついてきません。
時間は守る。
約束は守る。
最低限人として守らなければならないことは必ず守る。
その上で、必死で取り組む。
声を出す。バースは走る。整理整頓はする。練習を頑張る。ミーティングをする。準備をする。
そのようなことを一つ一つ丁寧に取り組んでいくことが大切です。
2つ目に「個人を尊重すること」
そもそも、僕のイメージしている日本一の姿とみんなのイメージしている日本一の姿は少しずつ違うと思っています。
そして自分以外の人の思い描く日本一も素敵なチームなはずです。
一人一人がワクワクする未来を尊重し、その人が一番頑張れる形で頑張ってもらうほうが結果的に一人一人が生き生きと頑張ることができて、チームの力は上がっていくと思っています。
僕はみんなの思う日本一のチームを尊重して、聞いてあげることをし続けました。
その中で主将の役割はみんなの目指すゴールを常に見せてあげることだと思います。
「日本一になる」
ここだけはブレずに1年間やってこれたのは本当に良かったです。
3つ目に「みんなを頼ること」
どんな時も僕は助けられてきました。
遅刻した時も色んな人から厳しい言葉や温かい言葉をかけてもらって、自分がどうあるべきかを決めることができ、立ち直ることができました。
トレーナーの話の時も副将の内藤がいなければ自分は自分の理想とするチームと違う方向に舵を切ることになってしまうことになってしまったかもしれません。
困った時はみんなが助けてくれます。
リーダーだからといって抱え込まずに助けを求めることが何より大切だと気付きました。
特に上の3つが大切だと感じました。
どれだけ自分がこの3つを1年間実行できたかは分かりませんが、全日本インカレでOBの方々に
「本当にいいチームだった」
「一致団結して戦えているのが伝わってくる」
と言っていただけて僕のやってきたこともヨット部に少しは役に立てたのかなと思っています。
そして、インカレの後、何人かの部員に
「創真さんが主将で良かったです」
と言ってもらえて救われた気持ちになりました。
みんなの信頼を少しでも取り戻すことができていて、みんながやりがいを感じながら楽しく活動できていたなら僕はとても嬉しいです。
今、2年生の時の自分に
「リーダーシップとは何だと思いますか?」
と聞かれたら
「信用を積み重ね、人を認めることができること」
と答えると思います。
それに加えて
「九大ヨット部主将の役割は何ですか?」
と聞かれれば
「日本一を掲げ続けること」
と答えると思います。
後輩のリーダー達。
リーダーは大変だけど、その分やりがいは山ほどあります。
みんなの努力がよく見えるし、自分の理想のチームを作ることができる。
こんなに楽しいことはないよ。
自分の理想のチームがどんなチームかをイメージしながら取り組んでいってください。
リーダーにはならなかった後輩達へ
リーダーは助けを求めています。
キツそうな時は声をかけてあげて、駄目なことをした時はきちんと叱ってあげて、そして何より、みんなもリーダーを信じてほしい。
リーダーはしっかり悩み考えているから。
助け合って更に良いチームにしてください。
来年日本一になることを楽しみにしています。
さて、最後になりますが、感謝の言葉で僕のブログを締めようと思います。
・OBの皆様
4年間本当にお世話になりました。
いつでも僕たちの味方でいてくださり、時には厳しく時には優しくご指導していただき、僕たちのような初心者ばかりの集団でも全国の舞台で輝くことができました。
皆様のおかげです。本当にありがとうございました。
大会に応援しに来てくださった方々はもちろんですが、広報を待ち遠しく思ってくださった方々、ブログを読んでくださった方々、ヨット部最近どうなんだろうと少しでも気にかけてくださった方々、全ての方に感謝申し上げたいと思います。
皆様のおかげで楽しく充実したヨットライフを送ることができました。
今後は僕たち4年生は現役のサポートに回ります。皆様とともに現役の日本一を応援していこうと思いますので、今後ともよろしくお願い致します。
・保護者の方々
4年間ありがとうございました。
ヨットというよくわからないスポーツを急に始めて、お金もかかり時間もかかり、馬鹿みたいにヨットに乗る息子、娘を応援してくださり本当にありがとうございました。
保護者の方々の応援があってこそ、自分たちは安心して部活をすることができました。
今年事故なく終わることができ、主将としてとても安心しています。
今後は少しずつではありますが、恩返しをしていこうと思います。
本当にありがとうございました。
・九州大学ヨット部の活動を見てくださった全ての方へ
今年一年ありがとうございました。
ヨット部の活動は輝いて見えたでしょうか。それともバカに見えたでしょうか。
色んなことを悩みながら、チャレンジしながら取り組む姿を見て、
「あ、九大ヨット部のこういうとこいいな」
と一つでも思ってくださったら僕はとても幸せです。
もし、もっとこうしたら良いんじゃないか、などのご指摘があれば、是非後輩たちに伝えて頂きたいです。
応援していただき誠にありがとうございました。
・ヨット部を途中で辞めていったみんな
少しだけでもみんなと一緒に活動できたことを嬉しく思います。
部活を最後まで続けた僕たちは確かに大きく成長することができました。
でもみんなも違う舞台で成長していることを知っています。
違う世界を知っていてそこで頑張ることができて、成長しているみんなの話が聞きたいです。
これからは僕もただの元ヨット部です。
仕事をしていく中でみんなと会えたり話せたりするときが来たら、お互いの経験を話せて楽しいかなって思ってます。
これまでありがとう。そしてこれからもよろしく。
・後輩のみんな
僕みたいな弱い主将についてきてくれてありがとう。みんなに支えられた1年間でした。
もう動画会ができないことやみんなの成長を間近で見ることができなくなることがとても寂しいです。
またいつでも相談乗るので声かけてください。
そして、みんななら必ず日本一になれます。
僕たちは可能性を見せることができたと思います。
日本一の早稲田まで374点差。17レースで割ると1レース平均22点差。更に6艇で割ると3.7点差。
1レース毎に各艇が4艇ずつ前を抜いていれば、もしくは抜かれなければ総合優勝でした。
確実に日本一の背中は見えています。
とにかくシビアにシビアに練習し続けてください。
ヨットを上手くなる話は内藤に是非聞いてください。良いこと教えてくれるはずです。
練習でミスした時は、そのミスで4艇抜かれて、優勝できなくなると思って練習してほしい。
勝つために最後に笑うためにシビアに練習しましょう。
みんななら絶対できる。頑張ってね。
応援してます。
・同期のみんな
僕を主将に指名してくれて、信じてくれてありがとう。
みんなが日本一になるために何ができるか考えて行動してくれたから、僕は楽しく主将をすることができました。
最高の同期でした。
最後に日本一になって笑って終わりたかったね。
まだまだ悔しい気持ちはあるけど、みんなと一緒に活動できた4年間は一生の財産です。
これからもヨットに乗りながら、仕事しながら一緒に頑張れる時が来たら素敵だなと思っています。
今まで本当に本当にありがとう。
これからもよろしくね。
以上で僕のブログは終わろうと思います。
そして、これで僕たちの代のブログは完全に終わりです。
寂しいですが、前を向いてまた進んでいこうと思います。
4年間ありがとうございました。
九州大学ヨット部前主将 長尾創真
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